◉震災発レポート
雨と太陽、日光街道を災害ウォーク!
帰宅困難者対応訓練 ①
東京都千代田区〜埼玉県草加市 ◉ 2010年9月25日
2010年首都圏統一帰宅困難者対応訓練
text by kin
2011.1 up
近年、帰宅困難者がリアルに想定されてきた
災害で交通機関が途絶えた時、自力で帰宅する帰宅困難者は、アニメ『東京マグニチュード8.0』(2009年)などでも描かれたように、近年では被災後の現実的な光景として認識されてきた。中央防災会議の想定では数百万人とも想定される。そこで内閣府では被災直後の行動は避け、あくまで「一泊以上留まり翌日以降に徒歩で帰宅」するようにと、「留まる準備」と「帰宅する準備」を紹介している。そんな帰宅困難者の防災シミュレーションが今年も開催された。
20キロ先を目指し、冷たい雨の出発
出発地の日比谷公園に到着したときは、小雨が降っていた。東京の午前10時現在の気温は15.9度。「2010年台風12号マラカス」が接近しており、天気予報によると午前中は雨が降り、午後からは晴れ間も出るとのこと。朝は首都圏もくもりだったが、日比谷公園でも30分以上前からは雨がぱらつきだしたという。少し肌寒くもあり、ほんの3週間前にサッカーの試合を見に行った際、試合の公式記録が39度だったことを思うと信じられないほどだ。
会場はすでに中井洽前防災担当相の挨拶など開会式も終わり、各コースから出発し始めていたところだった。急いで申し込んでいた埼玉コースの受付テントに行き、ゼッケンや地図、水や乾パンを受け取った。木の木陰に入り、ゴアテックスのレインウェアの上からゼッケンを付ける。先頭は5分ほど前に出発したところらしい。9時55分、埼玉コースの最後尾のグループと一緒に出発した。
今年は千葉、埼玉、東京、神奈川の4県5コースが同時に開催され、埼玉コースには300人ほどが参加したという。ここから国道4号線、日光街道を通り埼玉県草加市まで歩いて行く。地下鉄日比谷線〜東武伊勢崎線の真上から平行していくルートだ。個人的には馴染みの薄い場所を通るので、そのあたりの興味もある。
日比谷通りを内濠沿いに進む。雨は小雨から少し強くなったりとを繰り返し、時折風が強く吹く。折りたたみ傘を差している人も多いが、風にあおられ傘がひっくり返ったり閉じたりしている。みんな2列くらいで歩いているが、それ以上になると歩道がいっぱいになってふさいでしまう感じだ。雨のせいか近年増えている皇居ランナーの数も少ないようだ。
10時半、最初のエイドステーション(AS)となる、神田錦町にある東京電機大学の東京神田キャンパスASに到着。学生ボランティアの皆さんが暖かいお茶の接待。電気大中に入り、ロビーのベンチで一休みする。トイレには列が出来ていたが喫煙所もあったりしてこうした場所が開放されているととても助かる。建物を出ると雨は止んでいた。
秋晴れで歩きやすい気候に
岩本町から国道4号線に入る。道の上を首都高速1号上野線が走っている。秋葉原の裏側にあたり、ヨドバシAkibaの大きな建物が見える。日差しも出てすっかり秋晴れとなる。気温は17度ほど。空気も涼しく歩きやすい気候になってきた。
11時15分、上野駅前を通過。すぐ近くにある東京メトロ本社ビルの駐車スペースに設けられたASに寄り、冷たいお茶を貰ってほっとする。ここはトイレはなく、給水と地図のみのミニAS。地図で周囲の場所を再確認できて安心できる。次のASまで3.2kmだという。1時間弱くらいだろうか。
入谷の交差点、交番の裏にあった公衆トイレに行く。出たところで再び歩道を進むと道が切れて行き止まりになっていた。交差点を渡るには手前にあった歩道橋を渡るか、手前から別の歩道に渡って進むしかないようだ。表示がないため、我々のような他所から来た人がみんな道に戸惑っていた。
下谷警察署前を通過する。歩道は6mくらいあり、ちょっとした私道くらいの広さがあり歩きやすい。風が強く、舗道上に駐輪している自転車がいたるところで倒れている。
南千住六丁目、三ノ輪の辺りを歩く。都電荒川線の終着地としては知っているが、実際に来るのは初めてだ。ここは車道の交通量がたいへん多く自転車が走りにくいためか歩道を走る自転車が多い。しかもどの自転車も結構なスピードを出しているので、ただすれ違うだけでも危うさを感じ、こうした日常でもハラハラする。
歴史感じる素盞雄神社に
12時5分、南千住の素盞雄(すさのお)神社のASに到着した。大勢のサポートスタッフの方が出迎えてくれる。入り口付近には、連合ボランティアサポートが行ってきた新潟や三宅島での災害ボランティア活動の様子を紹介するパネルが展示されている。とりあえずお茶を戴き、境内を散策した。石畳と大きな木々に囲まれた神社で、落ち着いた雰囲気に包まれている。木のベンチに座ってスタート時に配られた乾パンを何枚が食べる。が、一瞬風が強く吹き、せっかくの1枚が飛ばされてしまった。神社の片隅に設置されているトイレには、10人以上もの列が出来ていた。気温は19.9度。15分ほどゆっくりと休憩して癒され、再出発した。
神社を出ると、すぐに青い鉄橋を渡る。隅田川に架かる千住大橋で普通の橋のように思うが、荒川区の観光パンフによると徳川家康が江戸に最初に架けたという歴史ある橋だという。そこから見る隅田川はまだ細く、運河のような印象だ。
千住警察入り口交差点付近を行く。車道は片側3車線と広い。訓練参加者の列は、ASと信号でちりじりになっており、前後にも参加者が遠くに見えるだけだ。空気はひんやりしている。風が強く、自転車で感じるような空気抵抗感すら感じる。青空の遠くには、ロール状に固まった雲が流れている。台風で固まった雲だろうか。
河川敷で炊き出しの昼食
12時50分、荒川河川敷に到着した。北千住駅から15分ほどの場所にあたる。土手の上から眺めると千住新橋の下にエイドステーションが開設されているのが望める。この場所は前の素盞雄神社ASで案内のあった「虹の広場AS」という場所らしいが、後から調べてみると虹の広場というのは橋の下ではなく、より下流に整備された広場のことらしかった。朝の雨などの天候により開設場所を移動させたのだろうか。こうした大きな橋の下は、雨も日差しもしのげる最適な場所だと感じる。
しかしながら「虹の広場AS」という外部からは場所の想像すら付かないネーミング。なぜこのような名前を付けたのだろうか。目印になるべく場所なのだから、ある程度想像できる住所や地名をべきだろう。例えばここであれば、「荒川南岸河川敷AS」か「千住新橋下AS」と具体的なネーミングにするのが妥当ではないだろうか。いろいろな意味で想像できたり理解できるということは、特に非常時であれば安心感にもつながるものだ。
[続く]
PHP研究所
手軽に始められます
オールカラー
#文中に登場する名称・データ等は、初出当時の情況に基づいています。
◉データ
2010年首都圏統一帰宅困難者対応訓練
開催日:2010年9月25日(土) 雨のち晴れ
コース:東京都千代田区-日比谷公園〜
A)千葉コース:〜千葉県市川市広尾防災公園
B)埼玉コース:〜日光街道経由〜埼玉県草加市綾瀬川左岸広場
B1)埼玉県内コース:埼玉県庁〜草加市綾瀬川左岸広場
C)東京コース:〜甲州街道.青梅街道〜武蔵野市武蔵野中央公園
D)神奈川コース:〜国道15号線経由〜神奈川県川崎市稲毛公園
E)神奈川県内(10/2):川崎.横浜コース(川崎市〜横浜市)
F)神奈川県内(10/2):藤沢.茅ヶ崎.平塚コース(藤沢市〜平塚市)
主催:2010年首都圏統一帰宅困難者対応訓練実行委員会
主管:東京災害ボランティアネットワーク
内容:徒歩帰宅訓練/エイドステーション設置訓練/情報発信訓練
- 2010年首都圏統一帰宅困難者対応訓練
- 東京災害ボランティアネットワーク
- 首都圏一斉帰宅徒歩訓練:on Twitter 本部用アカウント
- 平成22年度 徒歩帰宅訓練 実施します!!! - 埼玉県:危機管理防災部
- わが家の対策 - 帰宅困難者 - 東京都防災ホームページ
- 帰宅困難者対策〜「むやみに移動を開始しない」が基本です〜 - 埼玉県
- 帰宅困難者支援場所の指定について - 千代田区防災ホームページ
- 帰宅支援 - 防災首都圏ネット:九都県市首脳会議 防災・危機管理対策委員会
- [2010/09/30]〈東災ボ〉「2010首都圏統一帰宅困難者対応訓練」を実施(防災情報新聞)
- [2010/09/28]徒歩20キロ 消耗の大きさ実感 日比谷公園→草加の広場 帰宅困難者対応訓練 震災時の難所 再確認(讀賣新聞東京本社埼玉版)
- [2010/09/25]日比谷公園「帰宅困難者」の体験訓練(TOKYO MX NEWS)
- [2010/09/24]フードバンク:食品捨てずに被災者へ 東京のNPOが活用、あす訓練で提供(毎日新聞東京本社東京夕刊)
⡷⡷関連記事
- ▶震災ウォーキング❷ 情報リテラシーも必要に〜2008年首都圏統一帰宅困難者対応訓練/東京都千代田区〜埼玉県和光市 [2008年9月23日]
- ▶震災ウォーキング❶ 炎天下の繁華街を往く〜2008年首都圏統一帰宅困難者対応訓練/東京都千代田区〜埼玉県和光市 [2008年9月23日]
- ▷災害時の帰宅をシミュレーション❸ ついにゴール〜帰宅困難者対応訓練/東京都千代田区〜千葉県市川市 [2004年8月29日]
- ▷災害時の帰宅をシミュレーション❷ エイドステーションに到着〜帰宅困難者対応訓練/東京都千代田区〜千葉県市川市 [2004年8月29日]
- ▷災害時の帰宅をシミュレーション❶ 雨の都心をウォーキング〜帰宅困難者対応訓練/東京都千代田区〜千葉県市川市 [2004年8月29日]