阪神・淡路大震災で失われたモノ、残されたモノ、生まれたモノ…そんな記憶を記録します。

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◉震災発レポート

災害時の帰宅をシミュレーション ❸
ついにゴール

東京都千代田区〜千葉県市川市 ◉ 2004年8月29日
帰宅困難者対応訓練

text by kin

2004.9  up
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平井大橋下児童遊園エイドステーション(江戸川区平井 2004年8月)
平井大橋下児童遊園エイドステーション(東京都江戸川区平井 2004年8月)[クリックで拡大]

救援物資配給。炊き出しの昼食が美味しい

平井大橋下児童遊園エイドステーションに到着。大勢のおばちゃんらが出迎えてくれる。「お疲れさま!」「がんばれ!」とこっちはただ歩いているだけなのに声を掛けて貰うと、なんだか自分が何かをがんばってやっているような錯覚にも陥り嬉しくなってしまう。こちらこそ雨の中をありがとうございます、という気持ちだ。ここは荒川に架かる大きな橋の下なので雨を避けることができる。出発以来、初めて傘をたたんで荷物を置き、ゆっくりと椅子に座ることができた。スポーツドリンクを飲みながら身体をストレッチしたりする。5分ほど休んで再出発した。

土手を上がり、荒川に架かる平井大橋を渡る。風と雨が横殴りでぶつかってくる。それほど強くはないのだが慎重に歩く。川沿いを走る首都高速も越えて800mほどの長い橋を渡り終えたところに、早くも経路中で最も大きいエイドステーションである葛飾区の新小岩公園が現れた。テントが何張りも並んで炊き出しをしている。NTTの車も止まっており、災害伝言ダイヤルの説明ブースなどがある。

とりあえず荷物をみんなが休んでいる屋根付きのベンチに置きに行った。それからテントに行きビニール袋に入った救援物資セットと暖かい豚汁、五目ご飯の炊き出しを貰う。炊き出しの五目ご飯はアルファ米で、水やお湯を注ぐだけで出来るという食品。これが結構美味しかった。そして炊き出しの豚汁。こんな日には暖かい豚汁がとても嬉しい。座ってゆっくりと暖かい食事が摂れるということの有り難さを実感する。

救援物資セットの袋には水のペットボトルと缶詰、アルファ米、乾パン、ポケットティッシュなどが入っていた。全て自治体の非常用備蓄の入替放出品のようである。別に賞味期限が切れているわけではないので味見がてらちょうどいい。水は「エコアクア」という5年保存水。水分は持参した500mlのペットボトルと始めに配られた2本を背負っていたが、その1本をやっと飲みきったと思ったところ、また元に戻ってしまった。この天候でなければ有り難たかったのだが。次第にザックの中には、これまでのエイドステーションで貰った物資がいっぱい貯まってきた。公園に続々と人が入ってくるので、いつまでも休んでいるわけにはいかない。濡れた靴下を替えのものに履き替え、20分ほどで公園を後にした。

ついにゴール

もうすでに全行程の半分は過ぎたようで、10kmは歩いているはずだった。確かに脚には疲労感を感じているのだが、感覚的にはそんなに歩いている気がしない。歩道を行く参加者の集団は、道路の信号によって気まぐれに形成される。みんな雨なのに結構早足だ。この新小岩の辺りは普通の街中の幹線道路沿いが続き、大規模店、特に中古車屋がやたらと集中している。建ち並ぶ風景は無機質で単調極まりなく、景色の変化が実感できないと、前進している実感もないので精神的にはキツいものがある。空は、雨が時折強くなったり弱くなったりと依然として不安定である。

15時39分、東京と千葉の県境である江戸川の市川橋を越えて、ついにゴールの市川小学校に到着した。イメージの中の18キロよりも近い感じがして何かあっさりした印象で肩すかしの感もある。しかし出発から5時間ほど経過しているし、脚にも間違いなく疲労感を感じるので、その距離を確かに歩いたことは間違いないのだろう。それぞれのエイドステーションで休み休み来ているから、そうした地理的な距離感と心理的な疲労感をそこまで感じることなく来られたのだろうか。受付に行きゼッケンなどを返却すると、引き替えに修了証と缶詰や乾パンなどの一式を貰った。

校内で替えのズボンと靴下に履き替えて気分をさっぱりとする。渡り廊下には休憩所が開設されており、スタッフの人がお茶を用意してくれていた。そこでお茶を貰い、荷物を置いて椅子に深く腰掛けてゆっくりと飲み干す。そこに今回の訓練に誘ってくれた東災ボの友人が通りかかったので挨拶を交わした。「お疲れさま。雨が降ったっていうだけで、こんなにキツイとは思わなかったよ」。それがやはり私の今回の正直な感想だった。

イベントを日常として愉しむ

私はこの帰宅困難者対応訓練を、ウォーキング大会ような軽い気持ちで参加したが、やはり結果的にもそれは良かった。日常を前提として誰にでも起こりえることだからこそ「訓練」と言っても、変に構えて臨む必要もないのだ。逆に「訓練」という重いイメージの言葉がついているがために、その必要性とは逆に気軽に参加できるような日常性と離れてしまっている気がする。多くの普通の市民が参加できるように「災害ウォーキング大会」とでも名付ければ良いのにとさえ思った。

しかも例え本人がウォーキング大会のつもりでも、「災害」というキーワードを与えられただけで、いろいろなものに勝手に気づかされていく。幹線道路を何キロも歩くことになったら自分はどこをどう歩けば良いのか。そしてそのルートは安全なのか。ガラスや看板が落ちてくる危険はないのか。途中のトイレや水、食料はどう確保すればよいのか。

またその時の気候によっても気付く点はそれぞれ大きく異なってくるだろう。今日のように雨が降ってものが濡れて、座れない、荷物が下に置けないという"だけ"のことが、こんなにも高いハードルとなるとは思いも寄らないことだった。震災と強い雨が重なったりしたら、移動は極めて困難になるだろうことを容易に想像させた。

エイドステーションは現実的か

エイドステーションの存在とは、まさに至れり尽くせりで何の不自由もないほど完璧であった。しかし逆にここまでの体制を災害時にも構築できるのかといった余計な心配も感じた。実際の緊急時には、どのくらいの時間と規模で設置できるのだろうか。また携帯やWEBで配信された情報も、その配信間隔や内容の面で、驚かされるほど安心感を与えてくれた。果たしてこれを災害時も同様の運用が期待できるのだろうか。

われわれ徒歩訓練参加者は、何をするでもなくただ歩いただけだった。今回参加したからといって、災害時にも私が帰宅困難者になるとは限らない。もしかしたらそういう人たちをサポートする側──エイドステーションを設置したり、情報を送受信する側になるかもしれない。だが仮にそうなったとしても、実際に歩いた我々はそうした人たちが何を欲していて、何を助けられるのかが少しは見えてきたと思う。

日常の一遍として単純に今回のウォーキング大会は良い運動になったし愉しかった。同時に「災害という非日常」の日常も体験することができた貴重な一日だった。

[了]

◉初出誌
『2004年度 市民による防災訓練〜帰宅困難者対応訓練〜実施報告書』(東京災害ボランティアネットワーク発行,2004年)掲載を再構成。
#文中に登場する名称・データ等は、初出当時の情況に基づいています。
◉データ
2004年度 市民による防災訓練〜帰宅困難者対応訓練〜
開催日:2004年8月29日
場所:JR東京駅丸の内口〜千葉県・市川小学校
主催:東京災害ボランティアネットワーク
共催:東京石油業協同組合、東京・ボランティア市民活動センター、
       市川災害ボランティアネットワーク、連合東京
後援:東京都、千代田区、中央区、墨田区、江東区、
       葛飾区、江戸川区、千葉県、市川市

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