阪神・淡路大震災で失われたモノ、残されたモノ、生まれたモノ…そんな記憶を記録します。

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◉震災発レポート

災害時の帰宅をシミュレーション ❷
エイドステーションに到着

東京都千代田区〜千葉県市川市 ◉ 2004年8月29日
帰宅困難者対応訓練

text by kin

2004.9  up
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東京都石油業協同組合のガソリンスタンドも参加し、トイレなどで協力した。(東京都墨田区 2004年8月)
東京都石油業協同組合のガソリンスタンドも参加し、トイレなどで協力した。
(東京都墨田区 2004年8月) [クリックで拡大]

横網町公園エイドステーションに到着

最初のガソリンスタンドが見えてきた。帰宅訓練ののぼりが目立つように何本もはためき、エイドステーションであることを示している。見てみると、休憩室はトイレを待つ参加者であふれかえっていた。スタンドの方も笑顔で応対してくれているのが有り難い。精神的に参っている被災者にとっては、こうした暖かい言葉や笑顔の対応といったささやかなことでも救われるだろう。まだ休むほどではないので先を急いだ。

11時50分、両国駅の先を抜けた東京都江戸東京博物館の先にある「横網町公園エイドステーション」に到着した。この横網町公園は「被服廠(ひふくしょう)跡」とも呼ばれる場所で、関東大震災(大正12年(1923)9月1日11時58分)の時には火災旋風が発生し、ここに避難してきた3万8千人もの人が亡くなった。震災の象徴的な場所として有名である。公園というよりも大きなお寺の境内のような雰囲気だが、中心にあるお寺のような大きな建物は慰霊堂で、実際には神仏各宗派の入り交じったような折衷的な慰霊の場であるという。

まだ数キロしか歩いていないのに、ここに到着してホッとしていた。冷たいお茶とスポーツドリンクが用意されていたので続けざまに2杯頂いた。テントの中にはこの周辺や次のエイドステーションまでの地図が大きく掲示されている。意外と街中に地図は見当たらないのでこれは助かる。スタッフの人がこの手書き地図をプリントしたものを配っていたのでそれを貰った。

スタッフの中には、テントの中で何やらパソコン作業をしている人もいる。今回の訓練では、徒歩訓練、エイドステーション設置訓練の他に「情報伝達訓練」というものを裏ではやっているらしい。インターネットや無線、そしてオートバイで実際に動き回り、エイドステーション間で情報のやりとりをしたり、その集めた情報や交通、天候、災害などの最新のニュースを携帯電話のWEBやメールで配信するというものだという。せっかくなので私も事前に自分の携帯メールアドレスを登録してある。なんとなくイメージはできるのだが実際はどうなるのか愉しみだ。正午になり、公園を出発した。

通りの両脇にはのぼりを掲げたガソリンスタンドがいくつもあった。この辺りまでくると最初の方のガソリンスタンドとは違い、トイレなどのエイドステーションとしては参加者の利用もまばらになっている。そこで私も初めてガソリンスタンドのトイレを使わせて貰うことにした。お客の車は入っておらず、中にいた兄ちゃんに声を掛けると快い返事で場所を教えてくれる。考えてみると幹線通り沿いというのは公共のトイレが公園くらいしかないので、適当な間隔で設置されているガソリンスタンドの存在は有り難いと実感できる。

地面が濡れて、座って休めない

12時25分、ちょうど両国駅から錦糸町駅までの一駅分1.8kmを歩いた所で、早くも次のエイドステーションである錦糸公園に到着した。ここは噴水やプール、テニスコートや体育館などがある大きな公園である。雨で利用者のいない区営プールのトイレを使わせて貰ったあと、テントで食料などの入った救援物資の袋を貰った。中には缶コーヒーと菓子パン2つと非常食のビスケット、ポケットティッシュなどが入っていた。

ちょうどお腹が空いていたところだったのでこの救援物資はとても嬉かった。そこでゆっくり食べようと思い辺りを見回してみると、休める場所がないことに気がついた。晴れていればベンチでも縁石でも地べたでもとりあえずどこでも座れて休めただろう。しかし雨が降ったという事実だけで、その選択肢が全てが奪われてしまったのだった。仕方なくみんながそうしているように、テント裏の木が被い茂っている小径で食べることにした。木が茂っているとはいえ雨が梢の隙間から落ちてくる。傘を差し、濡れた地面に荷物を置くことも出来ないので、それを背負い、その場で立ちすくみパンを食べることになった。

ところがこの救援物資の菓子パン、なんと「あんこジャムパン」(!)というあんことイチゴジャムをコラボレーションさせたキワモノ菓子パンだった。それがとにかく甘い。甘いのでコーヒーを飲もうと思ったが、両手がふさがった状態でなおかつコーヒーの缶を開けて飲むというのは至難の業だ。パンをビニール袋に戻しつつ缶のプルトップを開けてそれを飲み、またパンを取り出し食べる。座れず荷物も置けないという状態とはこんなにキツイものか。

そしてこの極甘あんこジャムパン、これがなかなかのどを通らない。貴重な救援物資に贅沢な注文を言ってはいけないが、しかし他の食料も乾パンにビスケットといった飲み物がないと喉を通らないようなものばかりで、今これを食べる気にはならない。かといって2つ目のパンもまたまたあんこジャムパンで、この甘いモノ攻撃の応酬についに屈して気持ち悪くなってしまい、食べるのを断念してしまった。何でよりによってあんこジャムパンだったのだろう。やはりこのような応急時には無難でスタンダートなものが一番だ。たぶん普通の時におやつでちょっと食べる分には美味しかったかもしれないが、なんとも不幸な出会いだった。およそ30分ほどの食事休憩で、このエイドステーションを後にした。

亀戸天神の横を通ったころ、携帯に情報訓練のメールが届く。

12:45現在の情報です。
◆エイドステーション開設状況
【横網町公園AS】開設中、給水可
【錦糸公園AS】開設中、パン・缶コーヒーの配布あり
【亀戸中央公園AS】開設中、給水可
【平井大橋下児童公園AS】開設中、給水可
【新小岩公園AS】開設中、ご飯・トン汁・飲み物配食可
◆沿道協力ガソリンスタンド情報
最後のAS15までノボリの設置が完了しました。トイレの使用ができます。
◆周辺道路状況:とくになし

「凄いな」というのが素直な第一印象だった。今回の情報には特に目新しいものはないが、ほぼリアルタイムで情報が整理され配信されているということ自体に驚いたのだ。それぞれの場所と双方向で確認をしながら情報をまとめるという作業は簡単なことではないはずだ。このシステムを担っている東災ボ加盟団体のレスキューナウは、これを日常業務にしているベンチャー企業である。今回は実験だが、これがもしもの時にも実用的に運用されれば凄いことだろうと思う。ちょっとばかり「未来が来た!」との感動を覚えたのだった。

[続く]

◉初出誌
『2004年度 市民による防災訓練〜帰宅困難者対応訓練〜実施報告書』(東京災害ボランティアネットワーク発行,2004年)掲載を再構成。
#文中に登場する名称・データ等は、初出当時の情況に基づいています。
◉データ
2004年度 市民による防災訓練〜帰宅困難者対応訓練〜
開催日:2004年8月29日
場所:JR東京駅丸の内口〜千葉県・市川小学校
主催:東京災害ボランティアネットワーク
共催:東京石油業協同組合、東京・ボランティア市民活動センター、
       市川災害ボランティアネットワーク、連合東京
後援:東京都、千代田区、中央区、墨田区、江東区、
       葛飾区、江戸川区、千葉県、市川市

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