◉震災発コラム
ともかく鉄人28号は立ち上がった!
新長田の復興再開発
神戸市長田区・若松公園 ◉ 2010年1月16日
KOBE鉄人PROJECT
text by kin
2011.1 up
実際に見た鉄人28号は、やはり大きかった。昨夏、東京お台場に立ったガンダム立像を観ていたのである程度の想像はしていたが、それとはまた別の新鮮な感動を覚えた。この鉄人28号立像は、2009年9月末に新長田駅近くにある若松公園内に建設されたものだ。2004年に亡くなった神戸市須磨区出身の漫画家・横山光輝氏の偉業をたたえることや震災からの復興を祈年し、NPO法人KOBE鉄人PROJECTによって計画が進められてきた。鉄人にとっては初めての1月17日を迎えることになる。
見事な造形美が大人も子どもも魅了
立像は新長田駅を降りてすぐの所、長田のランドマークであるジョイプラザの建物の裏手にある。ジョイプラザの横を抜け、商店街アーケードの端にその姿が見えてくると自らは鉄人28号世代ではないにも関わらず興奮を抑えきれない。個人的には「鉄人28号」というと、1980年ころのアニメ化された2代目を想い出す世代である。原作の初代にはなじみが薄いが、それでもワクワク感がある。
商店街でたこ焼きを買い、公園のベンチに座ってゆっくりと食べながら眺めてみる。家族連れが多いが、子どもから高齢者まで思ったよりも世代が幅広いようだ。中高年には馴染み深く懐かしさがあり、はしゃぎ回る子どもたちにとっても単純に非日常のリアルを感じられるのだろう。
そう感じられるのは、一つはその完成度の高さだ。鋼鉄と鋼板製の質感と見事なまでのバランスの良いポーズ。それは順光の太陽に映えるビビッドな原色に染まり、今にも動き出しそうな躍動感に溢れている。その造形美はさすがフィギュア製作に定評のある海洋堂監修だけある。高さは約15mだというが、例えば25mプールを縦にしたよりも大きく感じるのはなぜだろうか。
進まなかった復興再開発の地域
完成されたものを見て感嘆していた私もこの構想が発表された数年前は、その実現性を懐疑的に見ていた。総工費は1億3,500万円にも上り、被災地域にとってはそれはあまりにも大きな予算額に思えたからだ。またその苦労に対してどれだけの効果が期待できるのだろうか。広く寄付を募っていたが、これは民間や行政がやるプロジェクトではあっても市民がやることではないと思っていた。結局はその費用の三分の一ほどを神戸市から助成を受ける事ができ、残り分も市民から寄付を集めることができたという。
この新長田南側地区は、神戸市のマスタープランの中で西部副都心として震災復興市街地再開発事業地区となってはいたが、10年近くもの間なかなか再開発事業が進んでいなかった。その後「アスタくにづか」の一連の再開発ビル郡が整備され地下鉄海岸線がやっとのことで開通した後も、なかなか人は戻って来なかった。報道では、そうして再開発に時間が掛かり過ぎたことにより、この新長田周辺にあったケミカルシューズ関連の工場や問屋が地域に戻ることができず、結果ケミカルのコミュニティごと他の地域に移ったりしたという。
そうした周辺人口の減少は、そのまま喫茶店やお好み焼き屋、銭湯や商店などの商業の衰退にもつながっていた。アスタの空き室も多く地下鉄の乗降客も予測を下回って累積赤字が増え続けている現在、こうした復興再開発事業自体の失敗だという見方もされている。そうした街にとって、この鉄人は人口回復や経済復興の起爆剤になり得るだろうか。
震災以後の若松公園イメージ
この鉄人広場がある若松公園は、震災後からの街を知る私にとっては長らく仮設住宅があった場所というイメージだった。4年間もの間、44戸の「仮設若松住宅」が建ち並んでいた。その公園に隣接する駒ヶ林中学校は、妹尾河童のベストセラー『少年H』の主人公H(妹尾河童)の通っていた学校で、同小説もこの周辺が物語の舞台となっている。この周囲は新しいマンションや商業ビルに囲まれてきた。変化のスピードが明らかにアップしてきていた。
鉄人が立ち、新長田一番街商店街は新たな活気に満ちている。店頭に鉄人関係のグッズを並べている店も目立ち、明らかに電車に乗って遠くから観に来たとわかる観光客が増えてきた。一角には「琉球ワールド沖縄宝島」という沖縄の物産館もあり、長田になかったビジネスホテルも出来た。
しかし国道二号線を渡ると様相は少し変わる。長いアスタの大正筋商店街はまだ賑やかだったが、数年前に開業したライブハウスは無くなっていた。その先の六間道商店街や丸五市場や本町筋商店街、西神戸センター街辺りまでは、駅周辺の賑わいがつながっていないようだった。やはり鉄人の立地が駅から近すぎるため、その賑わいは鉄人周辺にとどまるようだった。理想を言えば商店街の先、長田港近くのアグロガーデンがある南駒栄くらいの場所にあったら良かったと思う。そうすれば苦戦を強いられている地下鉄海岸線にも貢献できたかもしれない。
さまざまな新長田南の魅力
しかし地元もそうした課題は以前から認識し、試行錯誤しているようだった。配布されていた鉄人マップは「回遊散策MAP」と名付けられ、各商店街の中に設置された「三国志」の巨大フィギュアや石像などの場所が紹介されている。年末には新たに「三国志ギャラリー」という展示ブースも作られた。同じ横山光輝氏の三国志で押しているが、鉄人に並ぶヒットまではもう少し時間がかかりそうだ。
新長田南の奥のほうにも観光としての見所はいろいろある。六間道には、これをかければ長田のお好みになるという知る人ぞ知る「ばらソース」の店舗兼工場があったり、丸五市場には「丸五丼」なる名物どんぶりがあったりする。古いお好み焼き屋やぼっかけコロッケの肉屋などいろいろとディープに愉しめる。この震災の類焼を免れた古いアーケード商店街では、ガガガSPのプロモーションビデオや映画『クローズZERO』のロケも行われた。
キャラクターによる町おこし
近年、集客の目玉としてキャラクターを活用した成功例はいくつもある。例えば2009年夏にお台場の潮風公園に立った18mの『ガンダム』立像。夏休みのピーク時には沿線の起点駅、新橋駅ホームの入場規制がかかったほどだった。駅からも初詣のような人の流れが続き、沿道の自動販売機もすべて売り切れ状態に。全国各地のみならず世界から来場者があった。最終的には、当初予想(150万人)を大幅に越える415万2千人が訪れたという。
あるいは、鳥取県境港市の水木しげるロードである。境港は島根県との県境にある日本海の港町だが、かつては普通の小さな地方都市だった。現在は地元出身の漫画家水木しげる氏の代表作『ゲゲゲの鬼太郎』をモチーフにした商店街のまちづくりを行い、全国から観光客が訪れる街になった。それは一帯がテーマパークのように徹底されたもので、JRから交番、郵便局などまで官民一体に巻き込んだものだった。
ともかく鉄人は立ち上がった。地域の商店街は、観光地化へと舵をシフトしていくことを選択した。新長田南地区の息の長い活性化につながって欲しい。鉄人は、街を見守る守護神になるだろうか。ガンダム同様、世界を目指して欲しいものだ。
鉄人の立つ若松公園は、JRや市営地下鉄の新長田駅からJRの高架に沿って西に数分歩いた所にある。駅からはジョイプラザの裏側に位置している。JRに乗っていても、鉄人の背中を大きく見ることができる。
[了]
#文中に登場する名称・データ等は、初出当時の情況に基づいています。
◉データ
鉄人28号モニュメント(計画概要)
構造:鉄骨構造
スケール:高さ約15.3m(直立時設定18m)
重さ:約50t(基礎重量 約150t)
原型制作:速水仁司
- 神戸市長田区
- KOBE鉄人PROJECT:神戸鉄人プロジェクト)鉄人28号&横山光輝三国志
- 横山光輝オフィシャルサイト
- 新長田駅南地区 震災復興第二種市街地再開発事業 - 神戸市
- 新長田まちづくり株式会社
- 神戸ながたTMO
- 神戸・新長田中心市街地活性化協議会
- 大正筋商店街(長田区)
- 丸五市場 - 神戸市小売市場連合会事務局
- 六間道商店街のBLOG - 六間道商店街振興組合(長田区)
- 特集「鉄人288号」原寸大モニュメント - 神戸新聞
- [2010/3/17]震災復興都市計画決定から15年 新長田駅南地区 - 神戸新聞
- [2009/10/5]15mの「鉄人28号」モニュメントが神戸市・長田区に完成〜構想3年、震災復興・地域活性化のシンボルとして長田を見守る「守護神」に - Robot Watch
- [2006/1]行け!鉄人 横山光輝の50年 - 神戸新聞
- 神戸フィルムオフィス ロケ地マップ 六間道商店街
- 琉球ワールド沖縄宝島
- 水木しげる記念館
- ゲゲゲの妖怪楽園